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バイリンガルは理性的?脳が喜ぶ外国語の効果

Updated: Jul 21, 2021


このブログを見てくださっている方の中には、自分の母語以外の外国語を使えたり、学習中だったり、という方も多いと思います。外国語を学び始めた理由は様々だと思います。その言語やその国の文化に関心があったからという方もおられれば、必要に迫られて、というケースもあることでしょう。


第二言語を話せると、仕事の幅が広がったり、外国人とコミュニケーションできて友人が増えたり、海外旅行のときに不便を感じなかったりといろんなメリットがありますが、今日取り上げるメリットは「第二言語で考えた方が理性的になれる」ということ。わたしたち翻訳会社は無意識に使っている外国語ですが、この記事ではその意外な効能についてご紹介します。


言語は感情と理性に結びつく


中国で生活していたとき、すでに中国語を第二言語として流ちょうに話す友人が日本の漫才を中国人に楽しんでもらおうと、ネタはほぼそのままに中国語を使ってパーティーで披露したことがありました。本人たちは会場が「爆笑の渦に巻き込まれる」はずだと確信していたようですが、結果は散々。聴衆はみんなポカンとした顔を浮かべ、その空気に耐えながら最後までやり切るのは大変だったみたいです。


逆に私自身の経験ですが、中国に10年いても中国の伝統的な漫才とも言える「相声(Xiàngsheng)」を見て、中国人が大爆笑している気持ちは結局分かりませんでした。こうした例は、第二言語でユーモアや感情表現を理解したり、伝えたりする難しさを物語っていると言えるでしょう。


言語は感情表現という機能を備えているだけでなく、理性的に思考するためのツールでもあります。ノーベル経済学賞を受賞した認知心理学者ダニエル・カーネマンが、著作「ファスト&スロー」(ハヤカワ•ノンフィクション文庫、2014年)で記している「速い思考」と「遅い思考」に当てはまるようにも思えます。


彼曰く、日常生活を快適に送るために私たちは多くの決定を「速い思考」にゆだねていますが、速い思考システムはバイアスのかかった判断をする傾向にあるそうです。



例えば、それぞれ「果汁90%以上」、「添加物10%以下」と表示されたリンゴジュースがあるとします。


同じものであるにも関わらず、ほとんどの日本人は瞬間的に前者を選ぶでしょう。それは「果汁=身体に良いもの」という漠然としたイメージを持っているから。このイメージは感情と強く結びついているため、これがバイアスとなって判断を歪めてしまうことがあるというのです。



第二言語で理性が伸びる?


他方、「遅い思考」は理性的です。しかし、母語で判断しようとすると「速い思考」がでしゃばり、感情的、瞬間的に判断を下そうとします。そして、その判断において、慣れ親しんだ文化やイメージと結びついたバイアスを避けることはできません。


そこで役立つのが第二言語です。生まれた時から複数の言語に触れてきた方は別にして、一般的に第二言語は母語にはかないません。そのため、第二言語を用いて考えようとするとどうしても「遅い思考」にならざるを得ません。結果的に母語を使った出しゃばりな「速い思考」は鳴りを潜め、理性的なシステムにより判断を下すことができるというわけです。


実際、認知機能の専門家であるアルベルト・コスタも、第一言語で考える時よりも、第二言語で考える時のほうが冷静で合理的な判断を下せると述べていますし、この見解は他の研究によっても裏付けられています。



第二言語で自分の感情を言語化してみよう


私たちは仕事でもプライベートでも、いらいらして「キレそう」になる場面に直面することがあります。そんなときに「速い思考」に脳を乗っ取られ、あとで後悔するようなことは避けなければなりません。そのために役立つのが第二言語であり、その状況を言語化しようとする試みです。


ネガティブな感情に支配されそうになるときは、自分の思ったことをメモするなど「言語化」して客観的に自分の情況を観察するのが有効であるとされていますが、それを第二言語を使ってやるとさらに効果てきめんです。第二言語を使った作業にはどうしても時間がかかりますから、その間に冷静に思考できるようになり、ネガティブな感情が潮が引くように徐々に頭の中から消えていることに気づくはずです。


よく中国語や英語は論理的な言語だと言われますが、それぞれの言語が持つ特性に加えて、私たちが中国や英語を使って考え、話そうとすると自然と理性的にならざるを得ないからなのかもしれません。


誰もが「人間が言語を使う」と考えていますが、言語によって人が感情的になったり、理性的になったりすることを考えると、まるで言語に人間が操られ、コントロールされているように思えませんか?いささか不思議な感覚ではありますが、本当にそうなのか是非試してみてはいかがでしょうか?


参考サイト:


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI

2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。

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